カテゴリ:書評/読書日記( 10 )
詠むように読む
 相変わらずのろのろと『三国志』を読んでいます。いつもなら最小文字サイズにして、なるべく多くの文章を一画面で読めるようにしているのですが、この作品に限っては読めない漢字が多いので、ルビを表示して、そのルビの文字サイズと本文の文字サイズのバランスがとれるように、本文を最大文字サイズにして読んでいます。

 そうしますと、当然一画面に表示される文字数は非常に少ないわけですけれども、この作品には、その少ない表示文字数が非常に向いているといいますか、少なくとも私にとって好ましい結果を生んでくれています。

 まずこの作品は非常に一文が短く構成されています。そこに季節や情景、動きを表す様々な熟語が使われていて、まるで詩(うた)を詠んでいるかのような錯覚さえ覚えます。また、こういった熟語が文章の短さに一役かっているともいえます。

 なかなかうまい例えが見つかりませんが、あえて例を挙げますと、一般的な現代語では

「戦場を飛ぶ矢の如く彼は走り去った」

 というところを、

「征箭(そや)の如く彼は走り去った」

 というような感じです。実際はもっと美しくまとまった短い文章もあるのですけれど、なにぶん私の頭の中にきちんと留まっていませんので、いまはこんな拙い例えしか思い浮かびません・・・。

 で、こういった私の知らない熟語がたくさん出てくるものですから、辞書は必携です。もちろん携帯電話で調べています。「旺文社モバイル辞典」というサイトを利用しているのですが、国語辞典だけでなく漢字辞典も備えているので、少々難しい言葉もきちんと載っています。
 マルチタスクではないので、一度電子ブックビューアを閉じてEZwebを閲覧しないといけないのと、調べたい言葉をコピペできないのが面倒ではありますが・・・。

 これまで乏しい読書経験しかない私にとっては、携帯での読書を始めてからと言うもの新たな発見が盛りだくさん。こういった発見をきちんと自分の中で昇華できれば良いのですけれど。
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by masaki_graffiti | 2005-07-27 23:51 | 書評/読書日記
『フォーサイトeBooklet2005年6月号 特集 反日韓国の真意』
 私は割と新聞やニュースを読むのが好きなのですが、歴史問題などが絡んでくると、知識がないばかりにとたんに考えが滞ってしまいます。韓国での反日運動についても同様で、なぜ運動がここまで盛んになってきたのか、また、比較的日本国内が冷静なのはなぜか、などいろんな疑問を持ちながらも、ろくに調べもせず今日に至ってしまっています。

 そんなときに『フォーサイトeBooklet2005年6月号 特集 反日韓国の真意』(税込210円/SpaceTownブックスほか)に出会ったので早速購入&ダウンロードしてみました。

 この書に書かれていることを単純にまるごと信じ込んでいいとは思いませんでしたが、不勉強な私にとってはなるほどと頷けることが数多く書いてありました。韓国政府に対して、また、日本政府に対しても、皮肉があちこちにちりばめられていて、面白おかしく読むことができ、「あまりに難解な文章だったら困るな・・・」などと言う読む前の心配は全く不要でした。

 ネタバレが好きではないので内容について具体的な記述は控えますが、盧武鉉大統領が小泉首相と同じく大衆向けのパフォーマンスが好きであるとか、韓国の商習慣のなかに「日本隠し」があるといった内容は興味深く読みました。

 今号がとても面白かったので、以前のエントリーでもご紹介した『フォーサイトeBooklet2005年4月号 特集 中国の激変を見逃すな』も読んでみようと、あちこちのサイトを巡ってみたのですがどこにもありません・・・。なんと、このフォーサイトeBooklet、もとから期間限定配信だったらしいのです・・・。

 この号が配信されたときに気になっていたのですから、すぐに購入すればよかったのですが、電子書籍なのですからバックナンバーなどすぐにダウンロードできると思っていたのでした。たしかに内容が時事問題を扱っているだけに、各号とも“旬”というものがあるのは理解できますが、購入できないのがなんだか腑に落ちず、ただただ残念に思っています・・・。
 
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by masaki_graffiti | 2005-06-08 04:32 | 書評/読書日記
プロジェクトX 2冊
 NHKのテレビ番組「プロジェクトX」がこのところ少々物議を醸しているようです。テレビ番組という性質上、ある程度までの脚色は致し方ないと思いますが、事実をより鮮明に際立たせるためにありもしなかったことをあったかのように語ってしまうのは問題があるでしょう。
 ただ、視聴者にも「テレビには脚色はつきもの」という視点は必要な気がします。もちろん視聴率欲しさのヤラセばかりの番組などは論外ですが。

 こんなときにご紹介するのもいかがなものかと思いますが、『プロジェクトX 謎のマスク 三億円犯人を追え』『プロジェクトX カーナビ 迷宮を走破せよ』(ともに税込105円/SpaceTownブックスほか)の2冊を読んでみました。

c0069890_1071424.gif 『三億円犯人を追え』は捜査一課を夢見ながら思いがけず鑑識課指紋係に配属された塚本宇兵という男性を中心に話が進められます。配属直後の昭和43年、東芝府中三億円事件が発生。当時、事件の決め手は物証よりも自供。現場に最初に足を踏み入れるのは鑑識ではなく捜査一課という時代でした。大規模な捜査が行なわれたにもかかわらず、ご存知のとおり、この事件は時効を迎えます。捜査方針に疑問を抱きながらそれを覆すことができなかった塚本。エリートコースが用意されていたにもかかわらず、指紋係一筋に生き、やがて鑑識課のトップに立ちました。そして昭和61年、悪夢はふたたび訪れます。有楽町三億円事件の発生です。この悪夢に塚本はどう立ち向かうのか、そしてリベンジは果たせるのか・・・。

 なかなか面白かったです。少し警察小説や短編ミステリーを読んでる錯覚さえ覚えました。本当のミステリー小説のように複雑なトリックだとか幾重にも張り巡らされた伏線だとか、そういうものはないのでミステリーとして読んでしまうともの足りませんが、それを補うだけの人間ドラマもあり、そしてやはりノンフィクションであるという重みを感じます。

c0069890_1073517.gif もう一冊『迷宮を走破せよ』は音響メーカーであるパイオニアのカーステレオ部署にいた企画マン、畑野一良という男性を中心とした話です。花形部署、ラジカセ部門で失敗し、日陰部署であったカーステレオ部門に異動を命じられた畑野。一時はやる気をなくすものの地道に仕事を続け、その結果、自身が企画した“グラフィックイコライザー”付きのカーステレオが大ヒット。カーステレオ部門は社の中核部門に昇格し、畑野自身もエース企画マンとして認められるようになります。そんな折、自動車メーカーがカーステレオ開発に参入を表明。これを機に、パイオニアは新たな屋台骨となる製品の開発が必要となりました。その新たな製品を決める会議で畑野が市販型(予め自動車に搭載されているのではなく、あとから自由に取り付けができるもの)のカーナビを提案。しかし当時、カーナビは大手家電メーカー、自動車メーカーが開発しても普及が進まない代物でした。果たして畑野は、パイオニアは完成させ、ヒットを生むことができるのでしょうか・・・。

 こちらもなかなかの面白さでした。他社との競争やかけひきはもちろんのこと、カーナビにおける電子地図の共通規格を策定する団体「ナビ研」との距離感は、新たな製品を作る苦労、先駆者としてのうまみなどとも相まって非常に興味深いものでした。

 105円という価格は非常に手軽ですし、他のこの価格帯の書籍と比べれば、読み応えも十分あります。良くも悪くも「きれいな起承転結型(別の言い方をすれば水戸黄門型)」ですので、ひとつのドラマとしてそれなりに楽しめます。もともとテレビ番組制作が目的で取材されたものですし、その番組を文面で再現したにすぎないので、具体性にやや欠けるのが残念。若干「お涙頂戴」的な描写も気にならないことはないですが、そこは、もとはテレビ番組だと割り切ってしまえばそれほど大げさにも感じません。
 すでにこのシリーズは100冊以上あり、取り上げている分野も様々ですので、誰でも何冊かは興味を引かれるものがあると思います。
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by masaki_graffiti | 2005-05-24 10:08 | 書評/読書日記
『りら荘事件』
c0069890_2454857.jpg「あー、くやしいっ」

 鮎川哲也 著『りら荘事件』(税込630円/電子書店パピレス)を読み終わって最初の感想が上記の一言です。以下電子書店パピレスの書籍紹介より
 秩父の山荘に七人の芸術大学生が滞在した日から、次々発生する恐怖の殺人劇! 最初の被害者は地元民で、死体の傍らにトランプの“スペードのA”が意味ありげに置かれる。第二の犠牲者は学生の一人だった。当然の如くスペードの2が・・・・・・。奇怪な連続殺人を、名探偵星影竜三はどう解く? 巨匠の本格傑作。
こちらのサイトによりますと、初出は「探偵実話」の連載で1956年~1957年とのこと。セリフも語りも少々古い言葉遣いですから、最初はとても読みにくく感じました。が、事件が起きるとそこからはかなりスピードアップして物語が展開していくため、非常に惹き込まれました。
 面白いのは、この作品ではテスト前の教師がごとく「はい、ここ出まーす」と言わんばかりにあちこちに謎解きのヒントが散りばめられています。しかもさりげなく散りばめるのでなく、「この一言が後々事件を解く手がかりになるとは」というように、あからさまに多くの箇所で書いてあるのです。それだけでもかなりのヒントになるのに、さらにさりげなく書いてあるヒントもたくさんあります。

 それだけヒントがありながら、犯人を読み解けず「あー、くやしいっ」と思ったわけです・・・。物語中の数々の謎は個別にはそれなりに解けたのですが、その謎のつながりを導くことができませんでした。
 名探偵星影竜三の登場が非常に遅いために、逆に謎解きの楽しさを堪能できる作品です。星影が登場して一度東京に戻ったところで、最初から読み直して謎解きに挑んでみるのも面白いかもしれません。私はもう答えがほしくてほしくて一気に読み進めてしまいましたが・・・。

 国内ミステリー小説の原点として一読しておくことをおすすめします。皆さんがこれまで目にしたミステリーをヒントにすればいくつかの謎は結構簡単に解けると思います。犯人の動機を推察できるかどうかは微妙ですが(でもさりげなくヒントは置かれています)、解けた謎の数々をつなぎ合わせて、ぜひ犯人を突き止めてみてください。
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by masaki_graffiti | 2005-05-21 02:42 | 書評/読書日記
『天国までの百マイル』
c0069890_3132711.jpg 『天国までの百マイル』(税込525円/電子書店パピレス)を読んでみました。
 私はこれまで浅田次郎氏の作品を読んだことがなく、タイトルから想像してメルヘンチックに始まりメルヘンチックに終わるのであろうと思っていました。
 ところが読んでみると想像とは全く違い、非常に埃っぽいというか、世知辛さが漂っています。別れた妻、同棲するホステス、成功を勝ち取った兄姉たち、そして重い心臓病を患った母。それらの人間との関係が主人公の微妙な立場と、“男くささ”を浮かび上がらせています。

 あえてあらすじなどは申しません。いろんな書評やあらすじを読むより携帯サイトの紹介文を読む程度にとどめておいたほうが面白いと思います。30~40代の男性にはぜひ読んでいただきたい作品です。もちろん同じ年代の女性も十分読み応えを感じることができると思います。主人公のプライドや意地、逆に男特有の甘えや怠惰、弱さなど共感できる部分は多いです。他の登場人物にも思わず自分と比較してしまう場面も少なくありません。

 登場人物のさりげないしぐさを表した文章、これが結構ぐっときます。それぞれの感情が手にとるように伝わるのです。
 泣ける/泣けない、感動する/しない、などは別にして、自分自身や自分と家族の関係を見直す良いきっかけになりそうな作品でした。

 ちなみに私は最後のほうを時間の都合上、ちょっと読んではやめ、またちょっと読むということを繰り返していたため、クライマックスの盛り上がりが半減してしまったような気がしました。残り20%くらいになったら(※)、一気に読んでしまうことをお勧めします。

※ EZブックの電子ブックビューアは画面下部に「○%」と表示され、進み具合がわかるようになっています。
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by masaki_graffiti | 2005-05-03 03:13 | 書評/読書日記
良スレはスレッド全体で成り立っている
先日、どこでも読書『思い出に残る食事(1)せつない思い出』(税込105円/2ちゃんねる管理人・西村博之編)を購入、ダウンロードしてみました。・・・が途中で読むのをやめてしまっています。

「2ちゃんねる」の人気ログなどを電子書籍として配信といったニュースが聞かれたとき、私は非常に良い試みだと思いました。
というのは、2ちゃんねるほどの巨大掲示板になりますと、面白いスレッドを見つけるのは大変難しく、ましてや自分が普段ウォッチしている以外の分野なら目に触れることすらないことも多いと思います。そういったスレッドを発掘して電子書籍にしてくれるというのですから、非常に便利に感じたのです。

私と同じような思いを抱いた人も多かったのか少なかったのか、2ちゃんねる生まれの電子書籍が数多くダウンロードランキングに顔を出し、そのヒットのいきさつなども報じられました

そんな評判も知った上で購入してみたわけですが、私は少々期待はずれでした。
良くできた書き込みだけを寄せ集めたものだけあって、たしかに「書き込み」としてみれば、非凡なものばかりで興味深く読めるのですが、お金を取れるだけの質がうんぬんと言う前に、2ちゃんねるを眺めているときのような楽しさがないのです。

それで改めて2ちゃんねるの面白さについて、私なりに考えてみました。
掲示板の書き込みというのは、あるスレッドが立てられたときに良作と呼べるものから駄作まで幅広く書き込まれます。そういった質の幅、ギャップも楽しみの一つのように思います。
そして日々刻々と増えていく書き込み、またその書き込みに対する感想などが同時に流れるというライブ感。この感覚も掲示板ならではだと思います。自分と同じ感想が書き込まれたときなど、大げさに言えばオーディエンスとして気持ちを共有できたようにさえ感じます。

料理の話で「アクも味のうち」などと言われることがありますが、こういった掲示板生まれの書籍も良い部分だけを残そうとせず、スレッド全体(の雰囲気)を書籍に再現する、といった工夫が欲しいと思いました。
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by masaki_graffiti | 2005-04-26 05:12 | 書評/読書日記
『走って、ころんで、さあ大変』
TVタックルなどでおなじみの阿川佐和子さんのエッセイ『走って、ころんで、さあ大変』(税込472円/どこでも読書)をようやく読み終わりました。
初出誌は『週刊文春』平成元年一月五日号~平成二年二月八日号とありますので、ずいぶん古い作品ですが、大変面白かったです。
デビューにまつわる話から家族のこと、友人・芸能界の知人との交流、旅行先の出来事など、様々なことが書かれています。一つ一つの出来事は我々一般人にもありそうなことですが、あの阿川さんのキャラクターを前提に読むととても可笑しく思えます。そういう意味ではテレビなどに出ている人のほうがエッセイは親しまれやすいかもしれません。この作品の中の一部を、引用を含めてご紹介しようと思います。皆さんご存知の久米宏氏と、阿川さんを想像しながら読んでみて下さい。

ラジオは同じマスメディアでもテレビとはずいぶん勝手が違う。こちらから能動的に語りかけないと聴取者に伝わらないので、テレビ以上にサービス精神が必要になってくる・・・といった内容の文章の後に以下続きます。
 初めてラジオスタジオを訪れたのは、まだ私がこの業界で仕事を始めてまもない頃、久米宏さんがパーソナリティをしていらした番組に呼ばれたときである。
「百の質問」というコーナーで、メトロノームの音をバックに弾丸のような勢いで飛んでくる久米氏の質問に答えろというのだけれど、場慣れしていない私には、マイク越しに見える久米氏の口元の見事な動きに圧倒され、頭が回らない。ひとつ質問されるたびに「アー、ウー」と答えにもならない音を発するばかりだった。
「あなたは何色が好きですか」
「最近、読んだ本で面白かったものは」
「あなたは自分を毛深いと思いますか」
 毛深いだろうか。いや、毛深いところとそうでないところがある。どちらとも言えない。
「えーと、こういうところは濃いんですけど」
 と眉毛を指差す。すると、久米氏は驚いたような声を出し、
「ほう、そういうところですか」
「あ、でも小さい頃は、ここも濃くて悩みました」
 と、鼻の下を撫でる。
「ふんふん、そこも、濃いですか」
「腕とか足にはあまり生えないんですけどね」
「なるほど。阿川さんは、腕や足は濃くないが、こういうところは人一倍、濃いと。おわかりいただけたでしょうか。そういうことだそうです」
 しまった、そうか。これでは聴取者の誤解を招くのかなと気づいたときは、もう次の質問に移っていて、訂正もできない。
 おかげで、そのとき番組を聞いていらした方々に、私は妙なところが毛深い女という印象を与えてしまったようである。
阿川さんの真面目さと天然かげんがよく表れている話し方と、久米さんのわざと平静を装った話し方と人をからかったような笑顔が目に浮かびました。
阿川さんは最近も紙の書籍で新しいエッセイを発表したようですが、残念ながらケータイ版電子書籍には今のところこの作品しか見当たりません。今後ケータイ版に別の作品が出たのなら、また読んでみようかと思いました。
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by masaki_graffiti | 2005-04-21 06:27 | 書評/読書日記
笑えるものを求めて
ブログを始めてからというもの、少々読書から遠のいていたのですが、最近改めて読み始めました。

girls pocket bookシリーズの『電車内で聞いたHENな会話 傑作選1【悶絶爆笑編】』(税込105円)を読んでみたのですが、個人的にはイマイチ…。笑える内容もありますが、この程度なら2ちゃんねる覗くほうが楽しいと思いました。

これを読み終えた直後にダウンロードしたのが、阿川佐和子 著『走って、ころんで、さあ大変』(税込472円)。
どこでも読書に新刊として並んでいて、阿川さんの著作は以前ラジオで紹介するのを聞いて以来興味があったので買ってみました。

期待どおりの面白さでさまざまな体験談、失敗談が綴られています。
そして文章がとてもお上手。さすが作家の娘だなぁ、と思いました。

同じく作家の娘である、壇ふみさんの著作もいつか読んでみたいです。電子書籍にあるのかどうか知りませんが…。
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by masaki_graffiti | 2005-04-15 05:24 | 書評/読書日記
警察もまた人で成り立つ組織・・・
陰の季節
横山秀夫傑作短篇シリーズ(1)
横山秀夫/文藝春秋
105円
ビットウェイブックス
どこでも読書
少し趣の違った日本ミステリはいかがでしょうか。
天下り先のポストに固執し勇退をかたくなに拒む県警OB。人事担当、二渡真治の必死の説得も全く通用せず。なぜOBはそこまで勇退を拒むのか。調べるうち、ある事件が浮かび上がってくる・・・。
という内容です。

紙の書籍では、この作品を表題作として4編収録されていますが、電子書籍版は1編ずつという形で販売されています。

警察小説ではありますが、一般社会で起こる事件そのものではなく、警察内部に発生する事件にスポットをあてています。専門的な用語や部署名はもちろん、主役である人事担当の二渡はその役職と経歴ゆえ尋問が不得手というエピソードがあるなど、警察という組織と、その中に棲む人間を非常にリアルに描いています。

作者が「平成の松本清張」と言われるだけあり(事実、第5回松本清張賞受賞)、清張作品のように結末をあわただしく迎えるのですが、そのスピードのある終焉が驚きの結末をさらに助長しているように感じました。

変に媚びた笑いを盛り込んだり、情景・人物描写に凝りすぎたりしたところがなく、ストレートに感情や風景が伝わって、全体的に渋い雰囲気を持つ作品になっています。この短編シリーズは官能的な描写もほとんどないので、そういったものが苦手な方にもお勧めできる作品です。
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by masaki_graffiti | 2005-03-22 05:38 | 書評/読書日記
読みやすさが可笑しさをとめどなく後押しする一冊
イン・ザ・プール
奥田英朗/文藝春秋
840円
ビットウェイブックス
どこでも読書
何年も小説を読んでいないという方にお勧めの、ウォーミングアップに最適な一冊。
文体も平易で大変読みやすく、漫画を読んでいるかのように一気に読めます。

デブで注射フェチでどこか患者の病状を喜んでいるような変わった神経科医「ドクター伊良部」。彼の元へやってくる様々な患者とのやりとり、騒動がドリフのように面白おかしく綴られています。とにかくクスッとせずにはいられない面白さです。電車内のような人の多いところで読むのはお勧めできません。そのくらい可笑しさ爆発です。

表題作を含め、4編収録されており、どれも変わった症状の患者が登場します。どうみてもおかしな症状なのに、なぜか読んでいる自分、あるいは自分の過去の記憶と重ねてしまうのが不思議です。

患者たちは伊良部に出会うと一様に胡散臭さを感じます。ところが問診(というよりは伊良部の一人しゃべり)を受けるうちになぜかこのおかしな医者にひきこまれていくのです。それは伊良部が神経科医として、患者の気持ちをわかろうとする人として、極めてマトモな発言をすることに起因します。

表題作 イン・ザ・プール より
「つまりストレスなんてのは、人生についてまわるものであって、元来あるものをなくそうなんてのはむだな努力なの。それより別のことに目を向けた方がいいわけ」

こんなマトモな発言をしておいて、そのあとすぐに無茶な提案をしたりするので、患者はもちろんのこと、読んでいる私もずっこけそうになりました。

日ごろ疲れた心がなんとなく軽くなる作品です。
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by masaki_graffiti | 2005-03-15 06:32 | 書評/読書日記